【第5回】映像監視縁切寺 死角との縁切り

映像監視縁切寺

死角との縁切り

今回は読み切りです

前回まで、生体認証を扱ってきましたが、今回は読み切りで映像監視における死角との縁切りについてお話しします。

24/7

生体認証と同じように、映像監視も、たいていは人間の姿かたちを把握することを目標としています。

人間と違って、監視カメラは夜も寝ず、休みもとらずに「24/7」働いてくれます。「24/7」とは1日24時間、週7日間です。

しかも、監視カメラは、自分が見たものを記憶し、それを思い出すことができます。

人間は、見たものの一部を記憶することができますが、それを映像の形で第三者に伝えることはできません。

犯人を目撃した人が犯人画像を表示できればいいのですが、自分が画家でもない限り、顔の特徴をテキスト(言葉)で表すか、似顔絵の専門家に描いてもらったものを追認するぐらいのことしかできません。

でも、人間は、後になって容疑者の顔を見たとき、かなりの割合で確信をもって「この人に間違いありません」と言い切ることができるから不思議なものです。映像(画像)認識はできるのに出力ができないのです。

3VR

さて、事件を起こした犯人の足取りを把握して捕まえるためには、ふつう、目撃者情報を集めます。個々人に聞いて性別、身長、服装、その他の特徴を集めるので、そんなに沢山の情報は集められません。

一方、最近話題になっている街頭カメラは、記録された映像を出力できるので、とても効果があります。

それでも、監視カメラの拠点ごとに記録映像を巻き戻してそれらしい映像を探し出すので、やはり人手と時間がかかります。

米国西海岸のサンフランシスコ市内に本社を置く3VR(スリーブイアール=英語ではスリーヴィアールと発音)という会社は、この問題にいち早く取り組んでいる先進的企業です。

同社は、異なる営業拠点や異なる地域に分散する監視カメラの映像記録に残っている膨大な映像データ(ビッグデータ)に対して、簡単な顔認証や着衣の色判別を組合せることにより、特定の人物の行動や足取りを自動的に(私は、完全自動でなく、部分的に人による判別も組み合わせているところが気に入っています)把握するシステムを販売しています。

180-200:30-60

もうひとつ、監視をするときに大事なのは、視野の広さです。人間の目はとてもよくできていて、180度から200度ぐらいの視野を持っています。目の片隅で大雑把に認識し、必要に応じてターゲットだけを凝視することもできるのです。

ちなみに、体の両側に眼がついている動物はもっと広い視野角を持っています。

監視カメラの視野はどうでしょうか。現在一般に使われている監視カメラの視野角は30度から60度ぐらいまでです。もっと広い範囲を監視したい場合は、カメラ台数を増やすとか、電動旋回台付き仕様にするなどの方法があります。
カメラ台数を増やすと、カメラ費用が2倍、3倍、4倍と増えていきます。電源や配線も増えていきます。電動旋回台付きにすると、リアルタイムで監視担当者が監視しているときはいいのですが、録画されるのは、レンズが向いている方向の映像だけです。

1台

それなら、1台のカメラを鉛直方向に置き、魚眼レンズまたは円錐形のミラーを介してカメラのレンズ軸周り360度が見られるようにしよう、という発想が出てくるのは当然の流れだったと思います。

事実、ミラー方式はわりあい古くから商品化されていましたが、ミラーに遮られる部分は撮像できず、ドーナツ状の映像でしか見ることができないという欠点がありました。

魚眼レンズは、昔からスチールカメラの世界に存在していました。

しかし、魚眼レンズで撮った写真を見ると、きわめて不自然な印象を受けます。

芸術写真ならかまわないのですが、周辺部が強く押しつぶされ、レンズの中心部だけが異様に大きく映るので、監視用としては無理がありました。

だんだん画像のデジタル加工技術が発達してくると、魚眼で撮った円筒座標的な像を補正して、周辺部は引き伸ばし、中心部は小さくすることによって、より自然な画像にすることができるようになりました。

10年前

監視カメラの世界で、10年ぐらい前まではアナログカメラが全盛でした。

このカメラを使い円錐ミラー、あるいは魚眼レンズを介して映像を撮ると、周辺部を映像処理で拡大しても拡大後の映像がとても粗くなって、監視には適さなくなるため、それほど広く使われるようにならなかったのだと記憶しています。

5年前

弊社が取り扱うドイツ製IPカメラメーカーMobotixは、今から5年前に、これまでの監視カメラの常識を覆す同名のカメラを発売しました。

画角が180度(天井に下向きにつけると、360度の画角があるとも言えます)あるのですが、とても鮮明な映像が撮れるのです。

1メガピクセル(百万画素)以上のCMOS素子と、円筒座標映像をリアルタイムでX-Y座標に変換する技術があったからこそ実現できた技術です。

今では、各社が360度カメラを市場に投入し始めており、これから360度カメラ市場が急拡大する可能性があります。

360°

ところで、360度カメラはなぜ「死角からの縁切り」なのでしょうか?

第一に、360度カメラを一辺15メートルの四角い部屋の真ん中の天井に下向きにつけたとすると、原画像は、部屋全体をカバーする丸い形になります。

これを(Mobotixカメラの場合)同メーカー製無償ソフトウェアをインストールしたパソコンで座標変換すると、丸い形の任意の部分がX-Y座標の自然な映像に切り替わり、あたかも旋回台とズームレンズのついたカメラのように自由に表示できるのです。

この部屋に4台のカメラが部屋全体をカバーしているような、いわゆる4面分割映像もシャープに表示できるのです。

2つ目の縁切り

第二に、録画映像も部屋全体をカバーする丸い原画像になるので、映像に死角がなくなります。つまり、後で録画映像を確認したときに、映っていないところがなくなるのです。

例えばビルのエントランスにこのカメラを置くと、ビル入口から入ってきた人の正面顔が撮像できます。

そのままこの人がエレベーターホールの方に移動すると、その後ろ姿も撮像できます。

しばらくして、同じ人がエレベーターから降り、ビル入口から外に出ていくと、同じように正面顔と後ろ姿が逆の背景の下で撮像できるのです。

どうもカメラの宣伝になってしまいましたが、先を続けます。

このカメラをコンビニエンスストアのレジ後方の壁にレンズの向きを水平に取り付けたらどうなるでしょうか?

今度は壁の上から下まで、左から右まで、全部をカバーした映像記録ができるのです。

店舗のレジ側全域を見渡せるだけでなく、キャッシュレジスターからのお金の出し入れも、1台のカメラでしっかりカバーできるのです。

縁切り寺に駆け込んでください

廊下の多い施設、ロッカーが高くそびえるロッカールーム、サーバーが一定ピッチで密集するデータセンター、大形倉庫、バス、列車、資材置場、駅のプラットフォーム等々、このカメラを鉛直あるいは水平に取り付けると、これまで死角をカバーするために沢山のカメラを設置していたケース、あるいは死角部分があるのは仕方ないとあきらめていたケースなどで革命的に監視の可能性が広がるのです。

ぜひ、ネットあるいは展示会で360度カメラ映像を実際に見て、これまであきらめていた死角問題から逃れて、堂々と「縁切り寺」に駆け込んでください。

(縁切り寺シリーズ、ひとまずこれで終わりです。ご愛読ありがとうございました。)


【企画・編集】 株式会社ロックシステム 企画室

  【文】 顧問 長瀬 泰郎

ナ/長瀬