<第5回>VIVA、CASINO! カジノ・セキュリティ研究

2020年東京オリンピック、2025年大阪万博・・・
これらに次ぐ景気拡大の起爆剤として目される“統合リゾート(以下IR)”。
施設内の一部にカジノを含むことでその候補地をはじめとして事業者、開発費用、治安や依存などの議論があるため、従来のリゾート開発とは異なる色彩を放ち注目を浴びています。
保安・防犯に始まり情報保護や内部不正の抑止までカバーする“セキュリティ業界”においてもIRは目を離せないビジネスのひとつ。
新しい文化形成の過程上では新しい脅威が生まれるものですが、この世界を巻き込む大きな挑戦を”物理セキュリティ”の視点からみなさんと研究していく「VIVA、CASINO! カジノ・セキュリティ研究」連載コラム。
最新の物理セキュリティシステムと海外事例を、なるべく肩肘張らず平易な言葉でわかりやすく発信していきたいと思います。

<第5回 目次>
1 横浜が名乗り!IR誘致合戦
2 地域住民に受け入れられるカジノとは?
3 日本が牽引するスマートカジノ

1 横浜が名乗り!IR誘致合戦

去る8月下旬、弊社が位置する横浜を舞台に一つのニュースが飛び込んできました。

”横浜市 IR(統合型リゾート)等新たな戦略的都市づくりの検討”

https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/seisaku/torikumi/IR/ir.html

言わずと知れた一大都市ヨコハマ。IR法が整備されるはるか前の2015年に、横浜市が民間の関係者とともに検討会を立ち上げ、当時の林文子市長の推進方針のもと比較的積極的に誘致検討をしていましたが、市民の反発や2017年の市長選、ハマのドンと称される実力者・横浜港ハーバーリゾート代表藤木幸夫会長の猛反対などが相俟って、「ヨコハマにカジノを!」という気運は一時すっかりトーンダウンしていました。それがここにきて突然誘致レースに名乗りを挙げ、瞬く間に「No.1候補地」となっています。一体何があったのでしょう?

誘致合戦においては既に大阪府・市を筆頭に長崎県、和歌山県などの自治体が参加意思を表明していました。しかし、一部報道によれば、政府は2019年7月に予定していた「カジノ管理委員会」設立を秋に先送りし横浜の登場を待っていたと言われています。これには現阿倍政権と米トランプ大統領の意向も関係しており、林市長に決断を迫ったのは地元を選挙区とする大物政治家ではないかという噂もあります。8月22日の林市長の表明会見後、翌日に反応した藤木幸夫会長は「顔に泥を塗られた」と怒りを露わにしながらも、一方で林市長の立場を慮る姿勢を見せました。

2019年8月25日 神奈川新聞 賛否揺れる経済界

https://www.kanaloco.jp/article/entry-190697.html

経済・地域を巻き込み様々な反応が見られる横浜のIR誘致ですが、それまで大阪を選定地と見越して事業者選定に臨んでいたIR事業者のメルコリゾーツ&エンターテインメントは即座に大阪撤退の意思を表明し、横浜市にアプローチしてきました。そのほかにも大阪から横浜に鞍替えを検討していると思しき事業者が複数存在していることを考え合わせると、横浜は世界的にも経済的魅力が大きい都市であるということは間違いないでしょう。

2 地域住民に受け入れられるカジノとは?

林市長が誘致表明をしたと同時に反対運動も活発化してきました。市議会での野党反論、市民団体の反対署名、誘致関連費用を盛り込んだ補正予算を可決した9月20日の横浜市議会では、反対派市民が市役所を取り囲み「カジノ撤回」を訴えました。

ところで逆説的に考えてみると、「メリットがある」少なくとも「デメリットにならない」カジノであれば歓迎される可能性が高くなります。カジノが地域住民にとって少なくとも「デメリットにならない」ためには、懸念事項である「治安の悪化」「ギャンブル依存症の増加」が起こらないことです。「メリットがある」ことは経済的効果でしょう。もしかすると「安心してゲームが楽しめる」事をメリットと捉える向きもあるかもしれません。住民理解を得る「メリット」もしくは「デメリットにならない」根拠となる材料が不足したまま政策を推し進めると、反発はどんどん大きくなります。

長らく安全とされている日本の治安維持において、我々セキュリティ産業が提案できる安心材料は「デメリットにならない」ための施策です。「日本のカジノは世界中で最も安全・安心」という付加価値が生み出されれば、経済効果というメリットはさらに大きくなる可能性もあるでしょう。

3 日本が牽引するスマートカジノ

ところでカジノに先駆けること2020年の東京五輪、オリンピックでは世界初となるNECの顔認証技術による本人確認が行われます。対象は選手・大会関係者、プレスやボランティアなど30万人。事前に登録した顔情報から本人確認を行い、なりすましなどの不正防止、混雑緩和のためのスムーズな入場手続きを行います。競技会場や選手村、プレスセンターなど数百台の顔認証システムを導入し、ICチップ搭載のカードを読み取り機にかざし、カメラが顔を認識、カードと顔の情報を照合して本人かどうかAIが判断するという仕組みです。
2020年のオリンピックは日本企業が誇る世界最高水準のテクノロジーを世界に発信する機械でもあり、またテロの標的となりやすい国際イベントのリスクをIoTで低減させるという取り組みは世界的にも注目されています。

NECはこの顔認証技術とマイナンバーを組み合わせ、カジノの入場確認に利用する技術を先のIR展で発表していました。日本版IRでは依存症対策の一環として日本人の入場客に対してマイナンバーによる本人確認を求めるとしています。煩雑な確認手続きをIoTで軽減し、自動化することで判断を確実にする狙いもあります。

実際のところ顔認証は広域監視においては状況により個人情報保護法に抵触したり、プライバシー侵害と捉えられたりすることもあるセンシティブな技術です。顔認証技術をはじめとする生体認証をカジノに応用することは、情報管理の分野・安全管理の分野での個人識別データの利活用について議論を深めることになるでしょう。

利害調整はさまざまな立場の考えが錯綜するため一概に「これが正義」と言うことは困難ですが、デメリットをなくしてメリットに変えていく努力は利害を超えて結実するものです。カジノ研究会ではより良い形でここ横浜にIRが誘致されることを願い、今後も注視していきます。


カジノセキュリティ研究会