<第6回>VIVA、CASINO! カジノ・セキュリティ研究

2020年東京オリンピック、2025年大阪万博・・・
これらに次ぐ景気拡大の起爆剤として目される“統合リゾート(以下IR)”。
施設内の一部にカジノを含むことでその候補地をはじめとして事業者、開発費用、治安や依存などの議論があるため、従来のリゾート開発とは異なる色彩を放ち注目を浴びています。
保安・防犯に始まり情報保護や内部不正の抑止までカバーする“セキュリティ業界”においてもIRは目を離せないビジネスのひとつ。
新しい文化形成の過程上では新しい脅威が生まれるものですが、この世界を巻き込む大きな挑戦を”物理セキュリティ”の視点からみなさんと研究していく「VIVA、CASINO! カジノ・セキュリティ研究」連載コラム。
最新の物理セキュリティシステムと海外事例を、なるべく肩肘張らず平易な言葉でわかりやすく発信していきたいと思います。

<第6回 目次>
1 カジノで治安は悪化する?
2 オーバーツーリズム問題
3 地域防犯の取り組み~監視カメラ

1 カジノで治安は悪化する?

 カジノ設立で懸念事項の一つとなる”治安悪化”。カジノができることでどのくらい周辺の治安に影響が出るのでしょうか?今回はカジノと治安の関連性を考察してみます。
 
 「カジノ×治安」ではじめにイメージされるのは「暴力団の資金源になるのではないか?」という懸念です。過去のコラムでも触れましたが、華やかなカジノの裏側には暴力団が暗躍し、裏金やマネーロンダリングの温床になるという「イメージ」がついて回ります。
 この点は厳格なライセンス制度を導入し、背景調査や資金確認で防止するとされています。海外のカジノはどの国も反社会的組織や犯罪に関わる組織・団体をカジノ事業者として認定しない仕組みを持っており、間違いなく日本もそうなるでしょう。ちなみに現在運用されている各国のライセンス制度における”背景調査”は、事業主や株主、経営者など組織主体のみならず、その従業員も対象に成り得ます。過去の犯罪歴の確認はもちろん、犯罪と関連するような利益供与の有無、場合によってはクレジットカードの利用履歴や債務の状況まで確認されるという厳格さです。
 
 またマネーロンダリングはFATF(Financial Action Task Force 金融活動作業部会 日本はじめ米中など36か国加盟の政府間金融基準策定機関)の勧告に基づき法規制・指針が定められており、とりわけカジノ事業者はこの規制に従うよう求められています。黒いお金のイメージがあるが故に、一層厳しい「規制」と言う障壁が各所に設けているのが現実のカジノです。

 
2 オーバーツーリズム問題

 さて、カジノ事業者がクリーンであったとしても、治安が悪化しないとは言い切れません。観光地化が進むと犯罪率が上がるというのはよく言われることですが、昨今では「オーバーツーリズム(観光公害)」も散見されます。先般のラグビーワールドカップにおいても、スタジアム近くのコンビニや飲食店に大勢の外国人含む観光客が押し寄せ、通常ではありえない利益が生まれたと同時に多くの損失も発生したというニュースは聞き覚えがあると思います。

「オーバーツーリズム」とは観光地化が著しく進み、インフラ含め地域で許容しきれない観光客が押し寄せることにより経済的な損が発生することを指します。カジノを含むIRは「国際会議場・展示施設などのMICE施設、ホテル、商業施設、スポーツ施設などと一体になった複合観光集客施設」であるため、そもそも巨大なインバウンドの人の流れを期待しています。
オーバーツーリズムは交通集中による渋滞・混雑、騒音など周辺住民の日常生活にストレスをもたらし、個人商店を中心に地元の商店街がキャパシティを超え疲弊するなど不利益が発生し得ます。市政でカジノ誘致が話に上がるとどうしても前述の反社会勢力の台頭やギャンブル依存症という明白なマイナス面が表に立ちますが、誘致側が「オーバーツーリズム」をどのように捉え、対策していくのかという点に着目することも重要です。
 
 さらに、大勢の観光客を迎え入れる際はやはり地元住民・事業者・警察の連携が必要になってきます。既にこの問題を抱える京都や鎌倉では、地元住民のプライオリティパスなどの社会実験、観光客呼び込みの時期や場所の分散など、官民がタッグを組んで課題解決の取り組みを行っています。この問題には地域特性もあるためこれで万全、という施策がないのが難しいところですが、これらのバックグラウンドを考慮すると地域住民の協力無しではIRの実現、成功はあり得ません。
 

3 地域防犯の取り組み~監視カメラ
 
 ここで海外のカジノリゾートがどのように治安維持対策をしているか見てみましょう。
 
 ラスベガスがあるネバダ州では自治体が持っている個人情報の一部を警察機関・カジノ事業者と共有し、排除者リストの作成を可能にする法律があり、未然に重大犯罪を防ぐ体制を取っています。カジノのセキュリティ部門と警察は綿密な情報連携を取っており、地域で発生する些細な犯罪情報もカジノ側に提供されます。
 また日本のIRのモデルケースの一つとなっているシンガポールでは、カジノ内部に警察のオフィスを設けていたり、そもそもセキュリティ部門にシンガポール警察のライセンス保持者を採用したりする取り組みを実施しています。こちらも国から事業者に入場禁止者の情報提供が行なわれます。豪ビクトリア州や韓国では警察・事業者共同で定期的なパトロールやモニタリングを行っています。世界を見渡しても事業者のみ・警察のみといった単一機関で不正防止や犯罪防止を行っていることはありません。
 
 そして必ず登場するのが監視カメラによる地域ぐるみの防犯です。
 
 日本でも市町村・自治体・商店街等地域単位で設置する監視カメラはもはや日常の風景となっています。機能や性能、目的とする事象・対象物はさまざまですが、有事の際には状況証拠として重宝される情報です。もはや監視カメラはカジノに限らず防犯においてなくてはならないシステムですが、日本と海外の違いはその管理主体に差があります。カジノとは少し離れますが、人口860万人に対して200万台を超える監視カメラが設置されていると言われるロンドンでは、その大多数が警察により設置・管理運用されています。もともとIRAをはじめとするテロの標的になりやすかったという事情がある英国では、個人宅にカメラが設置されていると家財保険が割引になることがあるというくらい市民生活に密着しています。
 
  

 
 
 民間主導で設置・管理運用されることが多い日本に比べると、英国はじめ海外での監視カメラを用いた地域防犯のスケールに驚かされます。もちろん時と場合によってプライバシーに関わるためその取扱いは法規制やモラルの点で議論が必要ですが、カジノという神輿でIRを実現させたい意気込みの行政側としては、地域防犯の観点からも監視カメラの運用と警察機関の連携を主体的に検討し、地域との調整を図っていく必要はあるでしょう。


カジノセキュリティ研究会