<第9回>VIVA、CASINO! カジノ・セキュリティ研究

2020年東京オリンピック、2025年大阪万博・・・

これらに次ぐ景気拡大の起爆剤として目される“統合リゾート(以下IR)”。

施設内の一部にカジノを含むことでその候補地をはじめとして事業者、開発費用、治安や依存などの議論があるため、従来のリゾート開発とは異なる色彩を放ち注目を浴びています。

保安・防犯に始まり情報保護や内部不正の抑止までカバーする“セキュリティ業界”においてもIRは目を離せないビジネスのひとつ。

新しい文化形成の過程上では新しい脅威が生まれるものですが、この世界を巻き込む大きな挑戦を”物理セキュリティ”の視点からみなさんと研究していく「VIVA、CASINO! カジノ・セキュリティ研究」連載コラム。

最新の物理セキュリティシステムと海外事例を、なるべく肩肘張らず平易な言葉でわかりやすく発信していきたいと思います。

<第9回 目次>

1 IR誘致の闇

2 東南アジアのカジノ ベトナム フーコック島

3 事件簿:2017年10月 ラスベガス・ストリップ大通り銃乱射事件

1 IR誘致の闇

年末から新年にかけてのIR関連の議員逮捕のニュースは、IR法案反対派は「やっぱり」、賛成派は「がっかり」といった印象でしょうか。今回の汚職事件を受け、70%を超える見直しを求める声があったと共同通信社はその世論調査結果を1/12付の報道で伝えています。

IR整備「見直しを」70% 自衛隊中東派遣は58%反対 2020/1/12()  共同通信社

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200112-00000086-kyodonews-pol

これに先んじて昨年1129日には鈴木直道・北海道知事がIR誘致を断念しており、明けて17日には熊谷俊人・千葉市長が誘致申請を見送ると表明しました。年末から開催している市民説明会が紛糾している林文子・横浜市長もそれらの影響を注視しています。

IR汚職の影響「なくはない」 横浜市長、誘致巡り言及 2020/1/14(火) 神奈川新聞社

https://www.kanaloco.jp/article/entry-242592.html

今回の汚職事件は数人の国会議員と某企業間の贈収賄にとどまらず、事件の広がりを見せています。また、IR事業に前向きだった海外のカジノ事業者も、日本への参入に二の足を踏む様子が伺えるとBloomberg社が20191219日に報じています。

A Gambling Prize Worth 20 Billion Is Losing Its Luster in Japan 2019/12/19 Bloomberg

https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-12-18/casinos-20-billion-golden-opportunity-in-japan-losing-luster

カジノのうしろ暗い印象がIR全体に影を落としつつある状態に見えてきます。しかし、真実を白日の下に晒し、クリーンかつ正々堂々と展開していくことがIR事業を正当なビジネスのひとつとして捉えている側の統一的な見解でしょう。

2 東南アジアのカジノ ベトナム フーコック島

さて、そんな世界が注目しているカジノですが、シンガポール以外の東南アジア諸国にも存在するのをご存知ですか?実はフィリピン、カンボジア、マレーシアなど諸外国に存在します。ラスベガスやマカオのようにきらびやか、と言うよりはのんびりしたリゾート地の娯楽のひとつ、と言った風情であり、マレーシア、フィリピンには政府による公営カジノも存在します。文化・宗教面や依存症対策から自国民の入場を制限している国も多く、狙いは外国人の呼び込みとも感じられますが、地域によっては観光資源が少なく、観光客はもちろん企業誘致のためになんとか娯楽を提供し増収としたい諸事情も伺えるところです。

そしてカジノエリアを訪れる際、気になるのは周辺地域の治安です。カジノを楽しむゲストはパスポート等身分証、軍資金となる金銭またはそれらを引き出せるカード類を持ち合わせています。いくらカジノ内のセキュリティが強化されていると言っても、そこに至るまでの道のりに危険が存在する場合はとてもゲストを呼び込めません。カジノが周辺地域の治安に気を配るのもそこに理由があります。

ベトナムのリゾート地・フーコック島のカジノは20191月に開業しており、世界で最も新しいカジノのひとつと言えるでしょう。このエリア自体、ベトナム政府が近年力を入れて開発しているビーチリゾートであり、一般にイメージされるホーチミンやハノイ等の都市部とは趣が異なります。開発途上ではありますが、カジノ周辺は近隣のホテルエリアも含め整備されており、入場管理も顔認証技術を用いるなど先端技術を導入しています。昨今、経済発展に力を入れているベトナムですが、フーコック島のカジノには40億ドルが投資されており、将来の観光の目玉としたい意向が感じられます。

“Things to know about Casino in Pho Quoc island” Pho Quoc Island Explorer Travel News

https://www.phuquocislandexplorer.com/travel-news/casino-rivalry-set-to-heat-up-in-phu-quoc.html

3 事件簿:2017年10月 ラスベガス・ストリップ大通り銃乱射事件

直接的なカジノ・セキュリティとは少し話が逸れますが、今回はラスベガスで起きた銃乱射事件を振り返ってみましょう。

覚えていらっしゃる方も多いと思いますが、2017年10月、ラスベガスでは銃乱射による無差別大量殺人事件が発生しています。本事件の容疑者はマンダレイ・ベイ・リゾートアンドカジノ32階のスイートルームから、大通り斜向かいのラスベガス・ヴィレッジで開かれていたカントリー・ミュージックフェスティバル会場に向けて自動式の銃を数千発発砲しました。600人以上の死傷者が出ており、アメリカの単独犯事件としては史上最悪規模となっています。

アメリカでは、銃乱射による不特定多数を攻撃するActive Shooterは日常的に発生するテロリズムです。この事件の犯人は不動産投資やカジノで多額の資産を失っており、また持病の鬱病治療にはあまり推奨されないと言われる抗不安薬を服用していたなどの報道がありますが、直接的な動機は不明であり、一種の拡大自殺と見る向きもあります。

アメリカに拠点を置くASISインターナショナル(セキュリティ専門家を会員とする世界最大のセキュリティ団体)では、本事件の教訓として、カジノのセキュリティ業界では発砲音とその位置をいち早く察知し共有する新システム、ホテル客室のマニュアルの見直しと従業員トレーニング、セキュリティスタッフと警察機関、一般人とのネットワーキングなど、技術対策だけでなく安全文化の再構築を行っていると報じています。

Four Emerging Trends in Casino & Gaming Security  By Sara Mosqueda   2019/6/1

https://www.asisonline.org/security-management-magazine/articles/2019/06/four-emerging-trends-in-casino-and-gaming-security/

先述のとおりカジノ事業者・行政にとっては、誘致に伴う治安の悪化は最も避けなければならない課題であり、テロリズムも決してあってはならない事象のひとつです。Active Shooterの脅威は、日本においては銃社会特有の対岸の火事とも捉えられがちですが、昨今の児童殺傷事件や新幹線での無差別殺傷事件など予期せぬテロリズムは、安全神話が謳われる日本でも他人ごとではありません。日本版IRにおいても、このようなセキュリティのノウハウが継承・伝播されることを願います。