[物理セキュリティの視点から視る消防管理]第4回 防火戸の役割
法令と物理セキュリティ
建築基準法 第12条 (報告、検査等)
第六条第一項第一号に掲げる建築物で安全上、防火上又は衛生上特に重要であるものとして政令で定めるもの(国、都道府県及び建築主事を置く市町村が所有し、又は管理する建築物(以下この項及び第三項において「国等の建築物」という。)を除く。)及び当該政令で定めるもの以外の特定建築物(同号に掲げる建築物その他政令で定める建築物をいう。以下この条において同じ。)で特定行政庁が指定するもの(国等の建築物を除く。)の所有者(所有者と管理者が異なる場合においては、管理者。第三項において同じ。)は、これらの建築物の敷地、構造及び建築設備について、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は建築物調査員資格者証の交付を受けている者(次項及び次条第三項において「建築物調査員」という。)にその状況の調査(これらの建築物の敷地及び構造についての損傷、腐食その他の劣化の状況の点検を含み、これらの建築物の建築設備及び防火戸その他の政令で定める防火設備(以下「建築設備等」という。)についての第三項の検査を除く。)をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない。
2020年代、新しい時代の特徴と感じられるものの一つに、「災害の多さ」が挙げられます。
地震はもとより、度重なる豪雨や大型台風、激しい気候の変化による酷暑や冷害など我々日本人は最も「防災意識」を求められる時代を生きています。
(株)ロックシステムは物理セキュリティのプロとして、創業以来「防犯」をテーマに社会に貢献してきました。ともすると他者の侵入を許さない「防犯」は、災害時に他者の救助を必要とする「防災」と相反するものと考えられなくもありません。しかし、侵入経路も退避経路も同じ「出入口」。本コラムは身近な「消防管理」の観点から、消防を補助する物理セキュリティの在り方にアプローチしていきます。
平成25年に起きた福岡市診療所の火災を覚えていらっしゃいますか?地上4階、地下1階のRC造建物の1階処置室から上がった火の手は、死者10人、負傷者5人を出す大惨事となり、その後の建築基準法改正のきっかけのひとつとなりました。
火災発生の原因は温熱治療器からの漏電と言われています。この事故が注目を浴びた理由は、被害の大きさと共に、防火管理者が選任されておらず、防火戸がまったく機能しなかったという火災対策の杜撰さです。事故後の現地調査では、煙感知式に変更すべき感知装置が旧式の温度ヒューズのままであったり、無届で違法増築された吹き抜け部分には、設置すべき防火戸が未設置だったり、窓のない居室に排煙設備が設置されていなかったり数々の法令違反が明らかになりました。そして驚くべきことは、1969年新築当時からあった防火戸は設置されてから40年以上一度も点検されておらず、扉や枠の経年劣化の歪みにより機能しなかったのではないか、という点です。取っ手と階段手すりをロープで固定して、常時解放状態を維持していたという、運用面での問題も指摘されています。
事故発生当時、この建物は防火設備点検をはじめとする定期調査報告について、福岡市から指定されていませんでした。しかし、診療所の床面積は国交省指針の定期調査報告義務に合致しており、このことから全国の特定行政庁において緊急点検が実施されます。調査により見えてきたのは、無届増改築が全体の3%、防火戸不適合が全体の10%という危険な結果でした。
ところで防火戸とは火災発生時、具体的にどのような役割を持っているのでしょうか?
防火戸とは防火性能を持つ扉のことで、防火設備と特定防火設備の2種類が法律で規定されています。この2種類の違いは耐火時間です。20分火に耐えられるものは防火設備、1時間火に耐えられるものは特定防火設備になります。どちらも目的は避難経路の確保であり、煙や火災の延焼防止を目的としています。すなわち防火戸が正しく機能しない場合は、延焼が大きくなり避難経路が無くなります。設置や点検が細かく規定されている防火戸は、建築基準法で定められた人命保護における重要設備であると言えます。
学校や病院、ビルや商業施設などで防火戸を見かけませんか?防火戸は、開閉について大きく2種類のパターンがあります。
通常、閉鎖状態にある防火戸(常時閉鎖式防火戸)は、通過の際は人が扉を開き、通過後は自動で閉鎖されるようになっているのが特徴です。常時閉鎖式防火戸は煙の流入を防ぐ効果が高く、避難階段や特別避難階段ではこの方式が多く採用されています。自動閉鎖機能はドアクローザーで調整されており、点検の際はドアクローザーの確認も重要なポイントです。
製品名:片開折りたたみ防火扉
田中サッシュ工業株式会社 https://www.tanakasash.co.jp/index.html
一方で、随時閉鎖式防火戸と呼ばれる防火戸は、自動閉鎖装置を保有し、通常は壁の戸袋などに収納されています。火災発生時は感知器からの信号によって、自動で閉鎖する仕組みです。常に全開となっている階段室やエスカレーター、防火区画などで採用されています。
これらは有資格者による法定点検の他、防火管理者による自主点検も要求されます。正常動作の確認はもちろん、変形や損傷による支障の有無、可燃物や障害物の近接の有無、自動閉鎖装置の有効性などは自主点検項目としても挙げられます。防火管理者は設備の役割や機能、正常動作についての知識も必要となってきます。
随時閉鎖式防火戸に採用される自動閉鎖装置は様々です。防火戸の仕様や設置個所によって選択肢は変わってきます。開き扉の防火戸のほか、防火シャッターやダクトを保護する防火ダンパーなど防火・防炎装置に設置されます。ここでは自動閉鎖装置を構成する製品を見てみましょう。
ARS-B201 防火戸用自動閉鎖装置(ソレノイド式露出型レリーズ)
ARS-B201は防火戸の戸枠に設置し、煙感知器が作動すると、連動制御器からの制御信号により通電されることで、ラッチが出て扉が閉鎖状態になります。戸枠に対して縦でも横でも設置が可能で左右勝手がないため、既存防火戸に設置可能です。押しボタンがついており、手動で防火戸の閉鎖ができます。
製品名:ARS-B104 防火戸用自動開閉装置(ラッチ式レリーズ)
ホーチキ株式会社 https://www.hochiki.co.jp/support/business/library/kahou/automatic-closure-device/
こちらは平常時、防火壁と防火扉をラッチとフックで固定し、非常時に火災信号を受けてラッチを開放し防火戸を閉めるタイプです。機構がシンプルで衝撃や振動に強く、レリーズの保持力が0-686Nの間で任意に調整できますので大型防火戸にも対応できます。下記のデモ動画で動作をご確認ください。
※デモ動画の時間の都合上、受信機の蓄積機能は無しとして動作させています。
防火区画構築 デモ動画
非常時に利用される通路や階段などの設備は重要な避難経路ですが、有効に防火区画されていない場合、それは逆に煙の逃げ道となります。特に階段は上昇経路となるため危険度合いが増します。建築基準法はじめ法令では、一定規模以上の建築物に安全性能を有する直通階段など避難階段等の設置を義務付けていますが、非常時に役立つのはそれだけではなく、平常時からの避難計画や設備点検などの管理、平常時の運用や非常時の利用方法など人的教育です。火災を他人事と捉えず向き合うことが、火災の発生を防ぐ第一歩となるでしょう。
(株)ロックシステムは物理セキュリティのプロの知見と防火管理者の視点をもって、ユーザのみなさまの防災活動を支援し、運用について助言致します。