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[鍵・錠ものがたりー鍵・錠をめぐる歴史ばなし]第6話 パンがなければ鍵を作ればいいじゃない!?―ヨーロッパの鍵・錠ものがたり

鍵・錠ものがたりー鍵・錠をめぐる歴史ばなし

遠い昔より、人類と「鍵」は深い関係にあった。そのルーツは現代にも受け継がれている。
和錠文化が華やぐ日本よりはるか西のヨーロッパでは、キリスト教の影響を受けつつ、徐々に「モノ」としての性格を帯びるようになる。
今回はフランスを中心とした鍵・錠ものがたりをご紹介。

ヨーロッパにおける鍵の変遷

ギリシア、ローマなどでは、日本でも使用されていた「海老錠」に近似した錠を使用していた。ローマ時代に入ると上流階級の女性が左手の中指にはめ、貴重品を入れた箱を解錠するために利用していた「指鍵」というものもあった。
その様式は、この「指鍵」を含め、産業革命の少し前までほぼ「ウォード式」が主流だったとされている。


その外観は、キリスト教のみならずその時代ごとの文化芸術の影響をつぶさに受けていた。
例えば、ロマネスク期(8~12世紀)においてはローマ様式を基本としつつ東方、北方の建築様式を採用している影響もあり、鍵の握りの部分が円形である。
ゴシック期(12世紀半ば~16世紀初頭)にはアーチ形の天井と尖った屋根の教会建築が特徴。よりキリスト教の影響を受けた環境の中生み出された鍵の外観は、初期の場合握り部分がひし形、後期になると下の歯の部分に十字架が見える加工がなされるようになる。
そして「個」について探究、推奨するようになったルネサンス期(14世紀~16世紀)やその後のバロック・ロココ(17世紀)における鍵の外観は、握りは円形のものが多く、時代が進むごとに握り部分の細工が細やかになる。
ゴシック期以降の華やかな外観は、現代の一部のファッション、雑貨のデザインに多く採用されているため、目にする機会も多くあるだろう。

権威から実用へ―ヴェルサイユと鍵

鍵は実用品のみならずコレクションとしても愛用されていた。
ハプスブルク家の皇帝マクシミリアン1世や大公フェルディナントなどは鍵のコレクターでもあった。またドイツのバイエルンやヴェルツブルグの王室では、錠前職人の親方を呼び寄せ、宮廷付き錠前師として鍵、錠のみならず門扉などを作らせていた。
特に鍵と縁ふかいのはフランス、ブルボン王朝である。
太陽王と呼ばれたルイ14世もいわゆる「鍵マニア」のひとりであった。そのルイ14世の影響を受けたのか、ルイ16世もまた鍵製作を趣味にするほどの「マニア」であった。後にフランス革命が起こる中、ルイ16世は収監されたが、生活が厳しく制限される中においてもほぼ唯一鍵の制作は許されていた。皮肉な話ではあるが、彼が目をかけていた指導役の錠前師は革命派に加担していたとも言われている。

これまで幾度か世界的に鍵が権威の象徴として扱われていたエピソードを紹介してきたが、ルイ16世の妻であるマリー・アントワネットもまた、ヨーロッパにおける鍵・錠の歴史の転換点にいた人物の1人でもあった。
ヨーロッパの王族の婚姻では嫁ぎ先の都市(あるいは国家)より、「名誉市民の鍵」を授けられることがある。マリーもまた実家であるオーストラリア・ハプスブルク家からフランス・ブルボン家へ輿入れをする際に、パリの名誉市民の鍵を授けられている。
しかし革命により王朝そのものの権力が揺らぐ中、この鍵が持つ権威も、鍵そのものも全て無くなってしまった。
1793年に断頭台の露と消えた2人の後に遺されたのは、権威やコレクションの要素が薄れ、「実用品」として人々の生活に根ざした鍵・錠のあり方だった。
ルイ16世には鍵・錠の象徴から実用への転換点とも言えるエピソードがある。
ある日宮殿の錠前がかかっている部屋が火事になったことがある。宮中の誰もが消火が出来ず困り果てていた中、ルイ16世自らが道具を持って駆けつけ、解錠し消火をさせたという記録がある。
彼の鍵制作の道具はパリの工芸学校に遺され、ヴェルサイユ宮殿には今もなお彼の仕事場が遺されている。時代や情勢がもう少し穏やかであれば、彼は「現場」をよく知るリーダーとも言えたであろう。

後にナポレオンが歴史の表舞台に登場する頃には徐々に鍵の工場生産が可能になっていった。さらに時代が下り、産業革命後は「シリンダー錠」の大元となる「ブラマー錠」やローマなどで利用されていたかんぬき錠にヒントを得た「チャブ錠」など広く開発された。

この「チャブ錠」は明治時代、日本国内の西洋建築にも採用されるようになり、日本の近現代のカギ事情に大きく影響を残すことになる。

 

 

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