[物理セキュリティの視点から視る消防管理]第1回 パニックオープン・パニッククローズ
法令と物理セキュリティ
消防法 第17条
学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店、旅館、飲食店、地下街、複合用途防火対象物その他の防火対象物で政令で定めるものの関係者は、政令で定める消防の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な施設(以下「消防用設備等」という。)について消火、避難その他の消防の活動のために必要とされる性能を有するように、政令で定める技術上の基準に従つて、設置し、及び維持しなければならない。
2020年代、新しい時代の特徴と感じられるものの一つに、「災害の多さ」が挙げられます。地震はもとより、度重なる豪雨や大型台風、激しい気候の変化による酷暑や冷害など我々日本人は最も「防災意識」を求められる時代を生きています。
(株)ロックシステムは物理セキュリティのプロとして、創業以来「防犯」をテーマに社会に貢献してきました。ともすると他者の侵入を許さない「防犯」は、災害時に他者の救助を必要とする「防災」と相反するものと考えられなくもありません。しかし、侵入経路も退避経路も同じ「出入口」。本コラムは身近な「消防管理」の観点から、消防を補助する物理セキュリティの在り方にアプローチしていきます。
オフィスビルや病院、旅館やホテル、商業施設など多くの人の出入りを要する建物。それらの守衛室や防災センターは、出入口はじめ施設の保有する機能の一括集中管理を行っていることはご存知の方も多くいらっしゃると思います。今回はそんな防災の中心で採用されている一般的な出入管理の機能のひとつ、パニックオープンとパニッククローズについて取り上げます。
地震や火災などの災害が発生した際に、火災報知機や煙感知器と連動し、施錠されている扉を自動で解錠するシステムです。
避難経路となる出入口が解放となるため、在室者のスムーズな避難や消防隊員の迅速な救助活動を可能にします。
パニックオープンとは異なり、火災報知器からの信号を受けて扉を施錠するシステムです。強制的に閉鎖状態にすることで火災時の炎や煙の拡大を防ぎます。延焼防止措置として、避難時間の確保や建物の保護に役立ちます。
機能のみに頼らず、防火管理者を中心に避難経路の検討や把握、利用者への周知を徹底することは最も重要です。その上でパニックオープン・パニッククローズ等の機能は日々の管理を補助し、具体的な避難計画の立案に有効です。どちらも法令上の規制ではありませんが、災害発生時の被害拡大を防ぐ機能は、消防を考える上で知っておく必要があると言えるでしょう。
さて、では具体的にどのような機器を選定すれば、パニックオープン・パニッククローズといった機能を活かせるのでしょうか?ここでは機器選定のガイダンスとして、電気錠の種類についてご紹介します。
電気錠の大手メーカのひとつである美和ロック(株)では、以下のような機能を備えた製品をラインナップしています。
パニックオープン:停電時解錠型 AURなど
停電(通電していない)状態では、施錠しないタイプの電気錠です。
非常時は停電状態になることが予想されるため、パニックオープンの設定に適しています。
なお、停電状態ではキー施錠はできないため法定停電ほか設備点検などによる計画停電については、電気錠以外での閉鎖手段が必要になります。
パニッククローズ:停電時施錠型 AUTなど
停電(通電していない)状態では、解錠しないタイプの電気錠です。
延焼防止のため開放させない、もしくはより高度なセキュリティを必要とする箇所の保護に役立ちます。停電時の解錠は、キーやサムターンなどで操作が可能です。
これらの電気錠を制御する機器と組み合わせ、扉によってそれぞれ異なる機能を持たせることで、平常時は高いセキュリティを担保し、災害発生時は人命優先を補助することが可能です。日常的な避難経路の確認や訓練など消防対策に合わせ、機器の機能や使用方法についての知識、定期的な設備点検は、いざというときの助けになることは間違いありません。
パニックオープンとパニッククローズ、あなただったらどちらを選択しますか?
答えはもちろん、「目的による」。
テナントオフィスビルや商業施設など、不特定多数の人が多く出入りする場合はパニックオープンの採用が望まれるかもしれません。一方で、一人で非難が困難な患者様を擁する病院や介護施設の場合は、あらかじめ避難経路を定めておいて延焼防止を企図する方が有効かもしれません。金庫室やサーバ室など、人はいないけれど延焼を防ぎたいという場合もあります。
防災計画を練り、防火区画を整備し、避難経路の検討を行い、防護する対象物を明確にすることによって、どちらを選択するかは変わってきます。運用面と防災面を考慮し、所轄の消防署に相談する必要があるでしょう。
記憶にある方もいらっしゃるかもしれません、韓国・大邱で2003年2月18日に発生した地下鉄放火事件。心神耗弱状態だったと言われる犯人は、車内でガソリンを撒いて放火するという凶行に及び、死亡者192人、負傷者148人という大災害となりました。
この事件で注目されたのは乗務員の避難誘導の不手際、運行管理者であった鉄道会社の防災意識の低さと管理の甘さ。事件当時、総合指令室からの管制職務の怠慢により、放火された車両ではなく対抗車両への延焼が発生したことが被害を拡大させた原因のひとつでした。火災により停電となった地下鉄車内において運転手は、消火困難と見るや車両のマスターキーを抜いて社内より脱出。マスターキーが差してあれば停電状態でも開扉が可能であった車両は、マスターキーが抜かれたため自動閉扉となり、非常用バッテリーも作動しなくなりました。このことにより車内には多くの乗客が取り残され、火元の車両では死者6名、延焼した対抗車両では死者142名という大惨事となってしまったのでした。
現在では施設の建設にあたり設計段階から消防計画が考慮されますが、移転や引っ越し、施設の利用目的の変化など、消防計画を見直すシーンはいたるところに存在します。(株)ロックシステムは物理セキュリティのプロの知見と防火管理者の視点をもって、ユーザのみなさまの防災活動を支援し、運用について助言致します。